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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)542号 判決

東京都中央区〈以下省略〉

控訴人

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

高松市〈以下省略〉

控訴人

Y1

右両名訴訟代理人弁護士

吉川哲朗

奈良市〈以下省略〉

被控訴人

右訴訟代理人弁護士

田瑞聡

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して八九七万五〇〇〇円及びうち八一五万五〇〇〇円に対する平成九年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じて三分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人らの各負担とする。

三  この判決は、右一のうち金員の支払を命ずる部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要は、次に付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四頁五行目の「昭和六三年九月から平成元年九月までの間、」を「昭和六二年九月から平成二年六月までの間、」と改める。

2  同七頁一行目の「受けた」の次に「(以下、被控訴人が以上のとおり取引をしたマルコ株を一括していう場合は『本件マルコ株』という。)」を付加する。

3  同七頁一行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(六) 被控訴人は、以上のとおり、本件マルコ株に関し、出捐した合計一二七二万一〇〇四円から取得した合計一〇七万〇〇三七円を差し引いた一一六五万〇九六七円の損失を受けた。」

4  同七頁三行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「右勧誘により前記のとおり本件マルコ株を買い付けた被控訴人の過失の有無(過失相殺の当否)。」

5  同七頁末行から同八頁一行目の「マルコ株の上場に当たり上場日の高値買いをさせようとして、」を「控訴会社がマルコ株を大阪証券取引所二部に上場する主幹事会社であることから、被控訴人外多数の者にマルコ株を買い付けさせて上場日の株価をできるだけ高値にする目的で、的確な資料もないのに、」と改める。

6  同八頁五行目の「述べ、」の次に「マルコ株を買い付けることを断っていた」を付加する。

7  同九頁七行目の「経験がなく、」の次に「情報収集手段も判断能力もなく、」を付加する。

8  同一〇頁八行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(三) 控訴人らは、被控訴人が本件マルコ株を買い付ける以前から転換社債や株式取引をしていたから、被控訴人には情報収集能力、判断能力があり、控訴人Y1が本件マルコ株を被控訴人に勧誘したことにつき適合性の原則違反も断定的判断提供禁止違反もなく、仮にあったとしても被控訴人には過失があると主張する。しかしながら、被控訴人は、利回りの良いものを求めて元本の安定した転換社債を買い付けたものであり、これを短期で売り付けて売却益を獲得したことや、株式取引をしたことは、いずれも証券会社の従業員が取引手数料を取得する目的で右取引を被控訴人に勧誘するまました取引に過ぎないから、被控訴人が右取引をしたことがあるからといって、控訴人らの右主張を肯定することはできない。」

9  同一〇頁一〇行目の「原告は、」の次に「前記のとおり、」を付加する。

10  同一一頁四行目から七行目までを次のとおり改める。

「よって、被控訴人は、控訴人らに対し、控訴人Y1については民法七〇九条に基づき、控訴会社については同法七一五条又は債務不履行責任に基づき、連帯して、右損失額相当の一一六五万〇九六七円と弁護士費用一八〇万円の合計一三四五万〇九六七円の損害及びうち弁護士費用を控除した一一六五万〇九六七円に対する本件不法行為後の平成九年四月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。」

11  同一一頁末行の「及び」の次に「後記のとおり」を付加する。

12  同一四頁一行目の「説明した」の次に「もので、絶対に大丈夫である等と述べたことはない」を付加する。

13  同一五頁六行目の末尾に続けて「その際、控訴人Y1は、被控訴人に対し、一番底であり、必ず上がる等といったことはない。」を付加する。

14  同一五頁七行目の二番目の「原告の」の次に「次のとおりの株式等の取引経験から培われた知識と情報収集能力による」を付加し、同九行目の末尾に続けて次のとおり付加する。

「仮に控訴人Y1が被控訴人主張のとおり述べたとしても、被控訴人は、次のとおりの株式等の取引から、株式取引が損失を伴うものであること、証券会社の従業員が勧誘の際に述べたことが必ずしも信頼できないことを熟知していたから、控訴人Y1の右言動と被控訴人が本件マルコ株の取引により被った損失との間には相当因果関係はない。

仮に、控訴人Y1の勧誘行為に違法性が認められるとしても、被控訴人は右のとおり株式取引により損失を被ることを知っていたこと、被控訴人は次のとおり控訴会社以外の証券会社及び控訴人Y1の所属していない控訴会社梅田支店とも株式取引をしていたから、その従業員からもマルコの情報を収集することができたはずであること、更に被控訴人はマルコと同様のアパレル産業(既製服製造販売業)の会社に勤める長男Bからもマルコの情報を取得し得たことからすれば、被控訴人には本件マルコ株を買い付ける際損失を被ることがあることを予想し得たはずであるから、被控訴人に多大の過失があり、被控訴人の損害を算定するに当たり過失相殺をすべきである。

被控訴人は、昭和三六年ころから証券取引を始め、昭和六一年一二月ころから株式取引を開始し、本件マルコ株を買い付けた平成八年六月までに、控訴会社奈良支店及び梅田支店、和光証券株式会社(以下『和光証券』という。)奈良支店及び東和証券株式会社(以下『東和証券』という。)東大阪支店との間で、五二銘柄の株式を買い付け、そのうちには二部上場会社及び店頭取引会社の銘柄も含まれており、その上、被控訴人は、右株式取引と同様に売買益を追求し、転換社債を買い付けて短期間で売り付ける取引も多数回行っており、被控訴人の株式取引の経験は相当深いものであった。」

第三争点に対する判断

一  被控訴人が本件マルコ株を買い付けた経緯及びそれまでの被控訴人の株式等の取引経験

前記争いのない事実等、証拠(甲四、六、七、一〇、一六、乙一、二、五ないし七、二三、二四、二五の1、2、二六ないし三〇、和光証券奈良支店及び東和証券東大阪支店に対する各調査嘱託の結果、被控訴人・控訴人Y1各本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1  被控訴人(昭和一一年生、学歴は高校卒)は、昭和三六年に婚姻後、夫の経営するアパレル産業の会社で事務に従事し、そのころから控訴会社京橋支店で社債投信等を買い付ける証券取引を始め、昭和五六年に同支店が閉鎖された後はこれを引き継いだ控訴会社梅田支店で同様の取引を続けた。被控訴人は、同人の夫が昭和六二年に死亡し、その遺産として長男B長女C二女Dの分を含めて約四〇〇〇万円を取得したが、恒常的収入としては年金以外にない。

被控訴人は、右遺産の管理としても証券取引をするようになった。

2  被控訴人は、証券会社とは、社債の買い付け、国債及び公社債投信の買い付け及び転換社債の売買取引等の取引をしたほか、昭和六一年一二月に控訴会社梅田支店でNTT株を買い付けて株式取引を始め、昭和六二年七月に控訴会社奈良支店で大成建設株を買い付け、昭和六三年五月に和光証券奈良支店で全日空株を買い付け、以後、右各支店で被控訴人が後記のとおり本件マルコ株を初めて買い付けた平成八年六月四日までの間に、右証券会社の従業員の勧誘にしたがい、引き続き多数回にわたり、主として株式を買い付け、その後これを売り付けて売却益を得る取引をしたが、損失を被ることもあった(控訴会社梅田支店における取引は乙二八のとおり、控訴会社奈良支店における株式取引は原判決別紙1記載のとおり、和光証券奈良支店の株式取引は乙二四のとおり)。被控訴人は、東和証券東大阪支店においても平成元年一一月に三和銀行株を買い付け、同年一二月にこれを売り付けて売却益を得、同支店で二女D名義で平成五年三月にアルインコ株を購入し、同年五月にこれを売りつけて売却益を得た(乙二五の1、2)。被控訴人の株式取引において、平成八年六月一日までの間に買い付けないし証券会社に持ち込んだ株式は五〇銘柄以上に及び、そのうち二部上場会社は九銘柄で、そのうちの四銘柄は大阪証券取引所二部上場会社であり、店頭取引会社は一銘柄である。また、平成八年六月一日における控訴会社梅田支店における被控訴人の預かり資産は約六七〇〇万円であり、そのうち約三五〇〇万円が株式取引に関するものである。

3  被控訴人は、控訴会社奈良支店との取引を平成二年六月で一旦終了していたが、平成五年初めころ和光証券奈良支店の取引に無断売買があったとして、同支店に預けてある資産のうち約一九〇〇万円を引き上げ、平成五年三月二日控訴会社奈良支店に赴き、右資金を原資とする取引を再開した。その際、被控訴人は、応対したE投資相談課長及び控訴人Y1に対し、年金生活をしていること、亡夫の遺産を原資としており、子供らに分ける分があるから損をしない堅い商品を紹介してほしいとの意向を述べた。

被控訴人は、自己名義及び長男B名義で取引を再開したが、控訴人Y1は、被控訴人の右意向にしたがい、当初は株式取引を勧めず、その結果、被控訴人は、原判決別紙1、2記載のとおり、平成七年末までは株式取引をしなかったが、控訴人Y1は、平成八年初めころ、被控訴人が控訴会社梅田支店で株式取引をしていることを知り、被控訴人に対して株式取引を勧め、被控訴人は平成八年三月に大阪証券取引所二部上場のタイカン株を買い付け、同年四月これを売り付け、同一部上場の日成ビルド株を買い付けた。

4  控訴会社は、奈良県内に本店を有するマルコが平成八年六月四日大阪証券取引所二部に上場するにつき、主幹事会社となった。控訴人Y1は、平成八年五月末ころ、被控訴人に対し、電話で、マルコが奈良県内の下着を扱う業績が非常に良い会社であり、大阪証券取引所二部に新規上場されることを説明し、上場時に買い付けることを勧誘した。被控訴人は、亡夫がアパレル産業を経営し、長男Bがアパレル産業の会社に勤務し、亡夫及び長男からアパレル業界の先行きに不安があることを聞き及んでいたので、控訴人Y1からの勧誘に応じることをためらった。控訴人Y1は、二度目の電話で、三割の無償増資もある、マルコ株は一万三〇〇〇円くらいにはなるからその時に責任を持って売却する、絶対大丈夫である等と述べたため、被控訴人は、マルコ株を買い付けることとした。

被控訴人は、平成八年六月三日、控訴人Y1からの勧誘で、控訴会社に対しマルコ株を上場時に単価九五〇〇円までで買い付けることを注文し、翌四日被控訴人及び長男B名義で各三〇〇株を単価九二五〇円で買い付けた。

被控訴人は、平成八年七月初めころ、控訴人Y1から、電話で、マルコ株が一万円台に上昇したが、短期間で一万三〇〇〇円まで上昇することを強調し、価額が買値より下落している森精機の転換社債を売り付けてその代金でマルコ株を買い増して右転換社債の損を取り戻すことを勧誘し、その結果、被控訴人は、右勧誘に応じ、右転換社債を売り付け、同年七月三日長男B名義で六〇〇株を単価一万円で買い付けた。

マルコが平成八年一〇月一五日に発表した八月期の決算で、経常利益が予想を下回ったため、マルコ株の株価が下落した。被控訴人は、マルコ株の株価が下落したことを知り、平成八年一〇月ころ控訴人Y1に電話で問い合わせたところ、控訴人Y1は、マルコ株の株価は今が底で必ず上昇する、マルコ株を買い増して買い付け単価を安くしてはどうかと述べ、いわゆるナンピン買いを勧めた。そこで、被控訴人は平成八年一〇月二四日長男名義で二〇〇株を単価五二三〇円で買い付けた。

5  マルコを含めて大阪証券取引所二部上場の会社は、一部上場の会社に比べて、会社の規模、発行株式数、市場の規模、取引高などが小さいため、二部上場会社の株価は、一部上場会社の株価よりも価額が不安定で値動きが激しい傾向がある。

二  争点1(控訴人Y1の勧誘行為における違法性の有無及びこれにより本件マルコ株を買い付けた被控訴人の過失の有無)について

1  被控訴人は、本件マルコ株の買い付けに関する控訴人Y1の前記勧誘行為には、適合性の原則に反する違法性があると主張する。しかしながら、被控訴人は、昭和六一年一二月から本件マルコ株を最初に購入した平成八年六月四日までの九年間以上にわたり、控訴会社の梅田支店及び奈良支店、和光証券奈良支店及び東和証券東大阪支店において、前記のとおり、証券会社の従業員の勧誘により、多数回にわたり、主として株式を買い付け、その後これを売り付けて売却益を得る取引をし、損失を被ることもあったこと、右買い付けないし持込みによる銘柄は五〇以上を超え、そのうち九銘柄が二部上場会社のものであり、そのうちの四銘柄は大阪証券取引所二部上場会社の銘柄であること、被控訴人は、年金しか恒常的な収入がなかったとはいえ、亡夫の遺産を原資として、被控訴人の三人の子供らの分を合わせて、控訴会社梅田支店だけでも平成八年六月一日当時約六七〇〇万円相当の資産を預けていたことからすれば、被控訴人は、株式取引について相当の経験があり、しかも大阪証券取引所二部上場会社の四銘柄の取引をしたことがあることに照らせば、株式取引の右経験により、それが証券会社の従業員の勧誘にしたがったものとはいえ、それなりに知識及び情報収集能力がそなわったと考えられ(現に、被控訴人は前記のとおりマルコ株の株価動向を知ることができたものである。)、以上からすれば、被控訴人には、マルコ株が前記のとおり値動きの激しい傾向のある大阪証券取引所二部上場の銘柄であるといっても、マルコ株の株式取引をなしうる判断能力に欠けるところはないと認めるのが相当である。そうとすると、控訴人Y1が被控訴人にマルコ株の買い付けを勧誘したことをもって、適合性の原則に反するということはできないから、被控訴人の右主張は採用することができない。

次に、被控訴人は、控訴人Y1の右勧誘行為には、証券取引法五〇条一項一号で規定されている断定的判断提供禁止の違反があると主張するので検討するに、被控訴人は、控訴会社奈良支店との取引を平成五年三月に再開するに当たり、控訴人Y1に対し、前記のとおり、年金生活をしており、亡夫の遺産を原資とし、子供らに分ける分があるから損をしない堅い商品を紹介してほしいとの意向を述べていたのであるから、控訴人Y1が前記のとおり値動きの激しい傾向のある大阪証券取引所二部上場のマルコ株の買い付けを勧誘する場合、被控訴人にその旨を十分に説明した上、証券取引法五〇条一項一号で禁止されている断定的判断を提供してはならない義務があるところ、控訴人Y1がマルコ株が大阪証券取引所の二部上場銘柄であるから値動きが激しい傾向がある旨の説明をした形跡はなく、控訴人Y1は、被控訴人に対し、マルコ株は必ず一万三〇〇〇円まで上がる、絶対大丈夫だと述べて最初の買い付けを勧誘し、株価が上昇するや更に必ず上がると述べて二番目の買い付けを勧誘し、株価が下落したときにこれが底で必ず上がると最後の買い付けを勧誘したものであり、このことは、控訴人Y1が将来の株価の予想を述べたに止まらず、右説明不足をも考慮すると、被控訴人に対し右のとおり禁止された断定的判断を提供したものといわざるを得ない。そうとすると、控訴人Y1の右勧誘行為は、断定的判断提供禁止に違反し、不法行為を構成するといわなければならない(なお、被控訴人は、更に、控訴人Y1は、控訴会社がマルコ株を大阪証券取引所二部に上場する主幹事会社であることから、被控訴人外多数の者にマルコ株を買い付けさせて上場日の株価をできるだけ高値にする目的で、的確な資料もないのに、被控訴人に対し、マルコの業績が良く、株価は必ず値上がりする等と述べて、マルコ株の買い付けを勧誘したとも主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。)。

2  証拠(被控訴人本人)によれば、被控訴人は、前記株式取引の経験から、株式取引により損失を受けることがあること及び証券会社の従業員が勧誘の際に述べたことが必ずしも信頼できないことを知っていたことが認められるところ、控訴人らは、右事実があるから、控訴人Y1の右言動と被控訴人が本件マルコ株の取引により被った損失との間には相当因果関係はないと主張する。しかしながら、前記のとおり、被控訴人は、平成五年三月に、控訴会社奈良支店と取引を再開するに当たり、控訴人Y1に対し、理由を挙げて、損をしない堅い商品を紹介してほしいとの意向を述べていたこと、したがって、控訴人Y1は、その後三年間は株式取引を勧めず、元本が安定した取引を勧めていたことからすると、被控訴人は、それまでの株式取引から右認定の事実を知っていたとしても、控訴人Y1の前記のとおりの勧誘行為があったからこそ、これを信頼してマルコ株の買い付けをしたと考えられるから、前記のとおり違法な控訴人Y1の勧誘行為と被控訴人が本件マルコ株の取引により損失額相当の損害を被ったこととの間には相当因果関係があるというべきである。

次に、控訴人らは、被控訴人の損害を算定するに当たり過失相殺をすべきであると主張するところ、被控訴人は、右認定のとおり、それまでの株式取引の経験から、株式取引により損失を被ることがあることを知っていたものであり、また、証券会社の従業員のいうことが必ずしも信頼を置くことができないことも知っていたのであるから、被控訴人は本件マルコ株を買い付けたことにより損失を被ることを予想し得たはずであり、また、控訴人Y1のいうことが必ずしも信頼が置けないものであることも知り得たはずであるから、この点について被控訴人に少なくない過失があるといわなければならず、被控訴人の損害を算定するに当たり、右過失を考慮し、過失相殺をしなければならないというべきである。

3  以上によれば、控訴人Y1の被控訴人に対する本件マルコ株買い付けの勧誘には違法性があり、不法行為というべきであるから、控訴人Y1は民法七〇九条により、その使用者である控訴会社は同法七一五条により、被控訴人に対し、同人が右取引により被った損害を連帯して(不真正連帯)賠償すべき責任があるといわなければならない。

そして、控訴人Y1の右勧誘により本件マルコ株を買い付けた被控訴人には、右のとおりの過失があるから、被控訴人の右損害を算定するに当たりこれを考慮し、過失相殺をしなければならない。

三  争点2(被控訴人の損害額)について

被控訴人は、前記のとおり本件マルコ株の取引により一一六五万〇九六七円の損失を受けたから、右取引により右損失額相当の損害を被ったというべきである(控訴人らは、本件マルコ株の取引のうち長男B名義でなされた分は被控訴人の損害ではないと主張するが、前記のとおり被控訴人は自己の計算で長男B名義を使用して右取引をしたのであるから、その取引により損害を被ったというべきであり、控訴人らの右主張は採用することができない。)。

そして、被控訴人には前記過失があるから過失相殺をすべきであり、右損害からその約三割を控除した八一五万五〇〇〇円が被控訴人の過失相殺後の損害というべきである。

本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、本件の認容額、難易度等を考慮すれば、八二万円が相当である。

以上によれば、被控訴人が本件マルコ株の取引により被った損害は合計八九七万五〇〇〇円となる。

四  結論

以上の次第で、控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して、前記損害八九七万五〇〇〇円及びうち弁護士費用を控除した八一五万五〇〇〇円に対する本件不法行為後の平成九年四月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるといわなければならない。

したがって、被控訴人の本訴請求は、右の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。よって、これと一部異なる原判決は相当でないから、原判決を右のとおり変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 正木きよみ 裁判官 礒尾正)

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